チンギス・カン―“蒼き狼”の実像 (中公新書)

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チンギス・カン―“蒼き狼”の実像 (中公新書)

定価 798円
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この商品の感想

考古学からチンギスの当時と蘇る今日を映しだす
 2006年は帝国創立800周年とともにモンゴルは内外にチンギス・カンを大きくアピール。ウランバートル国際空港にチンギスの名を冠し、チンギス像を正面に安置した中央政府庁舎の改装はその象徴と言えます。1990年の民主化とともに現地調査を許され、文献史学に加えて、考古学の側面からチンギス研究を推進して“世界”の第一人者たる新潟大学・白石博士。今日までの研究成果のハイライトといえるチンギスの霊廟・アウラガ遺跡(ヘンティ県)の解析を軸に、純粋なハングリー精神と「質実剛健」な人物像、後宮組織及び弟と子供への領域の分封、遊牧民としての季節毎の宿営地移動を描き、また鉄資源獲得と「製鉄コンビナート」による武器供給体制、食糧生産と併せて築いたチンカイ兵站基地から、ビジョンと実務に長けた側面を投影します。シャーマンによる神のお告げで王となった経緯、58歳の時、将来を憂い1万4000キロの旅を要した全真教(道教の一派)の長春真人を呼び寄せて「不老長寿の秘薬」を求めたエピソードも。また霊廟は16世紀初頭に現在の中国・内モンゴル・オルドス地区に移転(今日、そのエジン・ホローにある1956年建立の「チンギスカン陵」に相続)。以降、霊廟をその象徴とするモンゴル人のチンギス崇拝は時の政治に翻弄され、モンゴル人を自陣に繋ぎとめる目的で清朝皇帝から始まり、現代中国では抗日意識も相まって毛沢東ならびに蒋介石に厚く保護される過程に。翻って共産主義下のモンゴル国内ではチンギスは批判のターゲットとなり、チンギス研究者は粛清の運命に。このような紆余曲折を経た800周年であることを実感します。著者が最後に言及する、アウラガとその周辺を文化遺産として保護、「チンギス・カン研究センター」をつくる意見には大賛成です。

切り口がいい
この本が、モンゴル関係の新書・文庫と比べて大きく違うのは、考古学成果からの考察に重心を置き、「史料」は必ずしも信頼しないというスタンスが貫かれていることである。
特に、モンゴルの資源確保・武器製造がどのようになされていたのかを、遺跡の調査結果をもとに考察した部分は面白い。

イメージが先行しがちなモンゴル帝国の姿が地に足のついたものになる、モンゴル好きの人には必読の書である。

まだまだ謎の部分は多いが…
本書を読んでいるうち、夏は涼しい所、冬は暖かい所へ移動する遊牧民の生活が、どこか一ヶ所に定住する生活よりも合理的に思えてきたのである。そして、その遊牧民の中から出てきたチンギス・カンは、定住指向を持つ日本人がイメージする国家統一者とかなり違った価値観を有しているのではないかとも思えてきたのである。ただし、まだまだ謎の部分が多いので、彼に対するイメージが明確なったわけではない。

本書のあとがきの日付は2006年早春となっている。チンギス・カン研究におけるほぼ最新の情報を得ることが出来るので、入門書としても最適と思う。

モノから見たチンギス
この書の特徴として、『元朝秘史』を最大限に利用してチンギスとそれ以前のモンゴルの姿を復元したこと、チンギスが鉄資源に着目していたことが飛躍の一因であったこと、発掘調査から、霊廟がアウラガ遺跡にあったこと、時代を経て南下し、現在のエジン・ホロー近郊に移ってきたこと、などがあげられる。自然科学分野の研究とコラボレートした視点(土中の花粉から年代分析、あるいは陶器の土の理化学的分析など)は、文献史学だけからは窺い知れない側面に光をあててくれて興味深い。また、新たに漢字碑文を見つけた感動で震えがとまらなかったシーンは研究する喜びが伝わってくる。


「蒼き狼」の謎に考古学で挑戦
 本書は、チンギス・カンの事跡や13世紀頃のモンゴル政権の発展の様子などをコンパクトに手際良く説き明かすものです。「今さらチンギス」などと思うことなかれ。著者の専門は考古学というだけあって、最近の発掘調査の成果がふんだんに取り入れられています。文献と物証という双方向からのアプローチにより、実証性と立体性の確保が図られています。
 内容面では、
 (1) モンゴル軍の強さを鉄資源との関係で分析していること、
 (2) 各王子の分封を交通路との関係で整理し、西方遠征等への布石として説明していること、
 (3) チンギス霊廟の政治的ポテンシャルについて言及していること
などを新鮮に感じました。
 世界史上最大の謎の一つとされるチンギス墓所の所在についても筆者は大胆な見解を提示しており、モンゴル・ファンにとっては大いに興味を惹かれるところと思います。

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